| 書名 | 投資家みたいに生きろ――将来の不安を打ち破る人生戦略 |
|---|---|
| 著者 | 藤野英人(レオス・キャピタルワークス創業者。「ひふみ」シリーズの運用で知られるファンドマネジャー) |
| 出版社 | ダイヤモンド社 |
| 発売日 | 2019年9月(2025年11月に日経ビジネス人文庫から[増補版]あり。本レビューは単行本を読んでの感想) |
| 定価 | 1,650円(税込) |
| ページ数 | 288ページ |
投資に投じる「エネルギー」の要素
未来から返ってくる「お返し」
人を動けなくする日本人の思い込み
一晩で読めるやさしい語り口
古本屋の棚でたまたま見つけた一冊が、ここ数年読んだ投資本のどれよりも自分の背中を押してきた。
タイトルに「投資家」とあるから、てっきり銘柄の選び方とか、長期投資の心得みたいな本だと思っていた。古本屋で手に取ったのも、著者がひふみの藤野さんだったから、くらいの軽い理由だ。
ところが読み進めるほど、株の話がほとんど出てこない。
出てくるのは、時間の使い方、人との付き合い方、仕事への向き合い方。投資家としての心構えというより、生きていくための心構えの本だった。そしてそれが、下手な投資本よりよっぽど効いた。
CORE THESIS(投資とは「生き方」のことだった)
この本の土台になっているのは、投資の定義そのものだ。藤野さんは投資を、お金の話に限定していない。
「投資とは、今この瞬間に『エネルギー』を投入して、『未来からのお返し』をいただく行為」
— 藤野英人『投資家みたいに生きろ』より(趣意)
ここでいうエネルギーは、お金だけじゃない。自分が何をしたいかという意思、時間、お金、決断、そして運。この5つを掛け合わせて未来に投じる。
返ってくるお返しも3種類ある。お金やモノといった「見える資産」。スキルや健康、人間関係といった「見えない資産」。そしてもう一つが、社会全体の明るい未来。
この枠組みで見ると、証券口座で株を買うことは、投資のほんの一部分でしかない。毎朝の過ごし方も、誰かに声をかけるのも、全部が投資になる。
読んでいて、ちょっとドキッとした。自分はずっと「投資=口座の中の話」だと思ってきたからだ。
⚠️ 著者バイアスの確認:著者が現役のファンドマネジャーなので、「投資家みたいに生きろ」という主張にはポジショントークの面もある。そこは割り引いて読んでいい。それでも、書いてあることの大半は投資をしない人にも通用する話だ。
本書の構成マップ
章立ては「思考」と「習慣」の2本柱になっている。考え方を変えて、日々の行動を変える、という流れだ。
プロローグ:「リスクと向き合う」ということ
思考1・2:投資家の考え方と、それでも人を「動かさないもの」の正体
習慣1・2:今日の過ごし方が未来につながる/長い人生で必要な資産を増やす
エピローグ〜おわりに:お金の投資を始めてみよう/サラリーマンの「虎」になれ
面白いのは、「お金の投資」がエピローグ、つまり最後の最後にしか出てこないこと。順番がはっきりしている。まず生き方、お金はそのあと。
何もしないことが、いちばんのハイリスク
「リスクゼロを求めて、じっとして何もしないでいることこそが、ハイリスクなのです」
— 藤野英人『投資家みたいに生きろ』より
この一文がこの本のすべてかもしれない。
リスクは「危険」じゃなくて「不確実性」のこと。避けて通れるものじゃない。動かなければ安全、というのは錯覚で、何もしない間にも時間は減っていくし、世の中は変わっていく。
50代になると、守りに入る理由はいくらでも見つかる。家族のこと、体力のこと、今さら感。でも「動かない」も立派な選択で、それにもリスクがちゃんと付いてくる。当たり前のことなのに、言われるまで気づかなかった。
日本人を縛る3つの思い込み
「思考2」で藤野さんは、人を動けなくしているものの正体を3つ挙げている。
その1:リスクはゼロにできる
その2:貯金は善、借金は悪
その3:給料は我慢の対価
3つ目が一番痛かった。
若い頃、給料は嫌なことを耐えた分のご褒美だと本気で思っていた。そう思っている限り、仕事は「我慢する時間」になる。我慢する時間に、自分からエネルギーを注ぐ人はいない。
この思い込みが、投資にも同じ形で出てくるのが怖いところだ。
「見えない資産」を毎日積み立てる
習慣パートは拍子抜けするほど具体的だ。人をほめる。挨拶をちゃんとする。流行りのアプリを入れてみる。会話で「なぜ?」と聞いてみる。
どれも元手はゼロ。でも積み重ねると、スキルや人間関係という見えない資産が複利で増えていく。人をほめるのはリスクがほぼゼロでリターンが大きい、という話には思わず笑ってしまった。確かにそうだ。
自己投資もお金の投資も、藤野さんの原則は同じ。小さく、ゆっくり、長く。一発逆転は狙わない。
気になった点
銘柄選びやNISAの使い方を知りたい人には、はっきり言って物足りない。そういう本じゃない。
逆に、投資を始めたけど何のためにやっているのか分からなくなった人、定年が見えてきて守りに入りかけている人には、かなり効くと思う。自分がまさにそうだった。
こんな人におすすめ
投資の本を何冊読んでも、行動が変わらないと感じている人。
50代以降、「今さら新しいことを始めても」と思い始めた人。
給料や仕事に対して、どこか我慢の感覚が抜けない人。
若い頃に読んでいれば、と思わなくもない。
でも藤野さんの理屈でいえば、そう思って何もしないことがいちばんのハイリスクになる。50代の今から見えない資産を積み立てても、遅すぎるということはないはずだ。
古本屋で買った一冊。今年読んだ本の中で、いちばん割のいい投資だった。


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